2006年3月24日金曜日

”Tech-On!"に紹介記事


当研究室の研究成果である「高次構造」縦型トランジスタについて、日経BP社のウェブサイト”Tech-On!"に紹介記事が掲載されました。
思ったより詳しく、しかもかなり正確な記述がなされています。
ぜひご覧下さい。

2006年3月18日土曜日

研究職を選ぶ理由

インテリジェンスという会社の転職支援サイトでこんな年収ランキングを見つけました。決して、私もぐらが転職先を探していたのではありませんよ。(w
研究室の一部の人には話しましたが、「電気・電子・半導体」業界の職種別平均年収は、院卒がほとんど含まれていないと思われる25歳を除くと、30、35、40歳いずれを見ても「研究開発」がトップです。ちなみに、最近うちの学科の学生でも選ぶ人が多いSEやプログラマ(別のページにあります)と比べても高いですね。なんと、金融系の5位くらいの職種よりも高いです。
他にどんな職種が比較されているかはリンク先を見てください。
これだけを見て、なにも考えずに「それなら研究開発部門を希望しよう!」と思う単細胞君は研究に向きません。ぜひ別の職種を選ぶことをお勧めします。(w

まず、この手の統計は、母集団のかたよりを考えなければなりません。
いろいろ考慮すべきことがありますが、私のこれまでの見聞から推測するに、一番考慮すべきは研究開発職に就いている大卒技術系の人数が企業規模が大きくなるほど飛躍的に多くなる点です。おそらく、ここに挙がっている「回路設計」の集団よりも、「研究開発」の集団のほうが大企業に勤めている人の率が高いものと推測されます。(こんな推測で論理を展開するのも研究者としては不本意ですが、ここでは一般論として考えられることとを述べているつもりです。)少なくともメーカーの範疇では、大企業のほうが中小規模の会社より一般社員の年収は良いですから。

まあそういう点を考慮しても、理系として社会に出るに当たって、研究開発職はそれなりに選ばれたものが就く職種と考えて良いでしょう。志望する価値は十分あると思いますよ。
研究室の学生の皆さんには、なかでも「研究職」に一人でも多く就いてもらいたいと思っています。
工学部を出て企業で研究をやるのですから、サイエンスを目指すことはないと思いますが、それでもエンジニアリングをやるかテクノロジーをやるかは大違いです。エンジニアリングというのは、すでによく知られている法則や方法を組み合わせて、現実の問題を解決することです。開発の仕事は、その色合いが強くなります。それに対して、テクノロジーとは、これまでに使われていなかった現象や材料などを使ってまったく新しい、あるいは、従来とは桁違いの性能を持ったものを創り出すことです。ここで言っている研究職とは、そのようなテクノロジーを創造することを目標とする人のことです。日本語にすると、どちらも技術と訳されてしまうことがあるので、違いが曖昧になってしまうのですが。
自分が良いと考えた研究テーマを精一杯やってテクノロジーの進歩に貢献できたら、何物にも代え難い感動が得られます。しかも、それができる人は、どこの会社(あるいは大学)に行っても研究者として通用します。社名の入った名詞を手に、「○○社の誰それ」と名のったときに、相手が○○社に価値を持ってくれるのか、あるいは、誰それさん個人に敬意を払ってくれるのかの違いです。

MN

2006年3月9日木曜日

コッホ先生来訪


ドイツのフンボルト大から、Norbert Koch先生が来訪されました。
彼は、有機半導体の界面電子現象のプロフェッショナルで、このコミュニティの若手のなかでも世界でトップクラスの研究者です。彼の講演とその後の我々の結果も含めたディスカッションは良い刺激になったと思います。何より、世界トップクラスの研究者とディスカッションすると、彼らの見識が広い上に深いことに感銘を受けます。良い研究、良い論文のためには、総説や教科書を書けるだけの見識が必要であることが実感されますね。
なにより、中村がプリンストン大のKahn先生の研究室に滞在していたときにいろいろと面倒を見ていただいたので、やっとその恩返しもできました。

MN

2006年3月7日火曜日

半導体物語(その4)

吾輩は有機半導体である。教科書はまだない。
だれが使い出したか頓と見當がつかぬ。(訳者注:トランジスタとしては工藤先生が先駆者です。)何でも暗薄いじめじめした研究室で合成された事だけは記憶して居る。吾輩はこゝで始めて人間といふものを見た。然もあとで聞くとそれは大学院生といふ人間で一番獰惡な種族であつたさうだ。此院生といふのは時々我々に電流を流しすぎて焦がすといふ話である。然しその當時は何といふ考もなかつたから別段恐しいとも思はなかつた。但彼のスパチュラでスーと持ち上げられた時何だかフハフハした感じが有つた許りである。
有機導体や半導体材料は我が国の甚だ得意とするところでもある。導電性ポリマー薄膜の合成で白川先生にノーベル賞が授与されたのはまだ記憶に新しい。吾輩の仲間の実用化研究でも、まあ世界の先頭を行つていると思つてよい。
抑も世の中の物質といふものは、金属でなければ心の持ちやうでなんでも半導体である。然らば吾輩の仲間がいかに電流を通し難からうが、半導体だと思ふ者あらば半導体と言つて差し支えなからう。
何しろ、有機分子そのものは閉殻構造である。分子の単位で電子のエネルギー準位が粗方決まつている。然るに、アモルファスであらうが結晶であらうが、或いは多少の不純物が入つていようが、無機の半導体のようにダングリングボンドに悩まされるでもなく、半導体としてキャリアを流すことを得るのが自慢である。
其のやうな性質のお陰で、簡単な設備でもデバイスと言ふものを成し得る。なんでも金で計るのは当世の悪しき習慣であるが、無機半導体で仮にもデバイスを作るのであれば億の単位の設備が必須である。然るに吾輩であれば、ひとまず幾千万円かの出費でどうにか格好が付くといふものである。これは決して貧乏研究室(訳者注:うちの研究室には総額何億かの設備がありますよ。)に優しいと言ふだけではない。低コストで大面積素子を作つて兎も角彼方此方で使おうといふフレキシブルエレクトロニクスなるものには欠かせない性状であると言へよう。
世の中に有機物質は五万とある。当然半導体として使えさうなものも数限りない。それらを組み合わせて、色々な工夫のし甲斐があるのが嬉しいところである。しかも、クラーク数は兎も角、生物圏にありふれた元素を使うので資源的な心配も少なく、燃やせばほとんど二酸化炭素や水になる。
又、植物の光合成が非常に効率の良いことからもわかるやうに、有機色素間の電荷移動を使った光電変換は分子スケールでは極めて効率が高い。これをうまく使えば高感度でしかも特定の色に感度良く反応するセンサーにもなる。太陽電池とやらも作られているさうである。数限りない仲間の中には光るのが得意な輩も沢山ある。
難点と言へば酸素を吸ってアクセプターや電子トラップが出来易いことか。御陰でn型の半導体としては一筋縄ではいかないのは難しい。
いまだ海の物とも山の物とも分からないと言われれば否とは言へぬが、世の中のために役に立つ日が来るのを夢見て研鑽に励んでいる。

MN
漱石先生へのトリビュートとしてみました

2006年3月1日水曜日

半導体物語(その3)

わたしはアモルファス半導体です。
アモルファスって何か知ってますぅ?
語源はギリシャ語のa-morpheで、「はっきりした形を持たないもの」という意味です。優柔不断ってわけじゃないですよぉ。結晶のような長距離秩序がない固体がアモルファスって呼ばれているんです。熱力学的には非平衡な状態なのですが、化学気層成長(CVD)法などの薄膜成長ではそもそも非平衡で膜が作られるので、ごく普通にできちゃいます。
半導体としての歴史は、1968年に多元系カルコゲナイド薄膜のスイッチング特性などが報告されて以来の長い歴史があるんですよ。
その後、1975年に水素化によってアモルファスシリコンのpn制御ができることがわかってからスポットライトを浴びる材料になりました。80年代にはアモルファスシリコンを使ったデバイスが盛んに研究されて、太陽電池やTFTとして皆さんに使ってもらえるようになったんですぅ。*^_^*
でも、TFTでは最近ポリシリコン君に押されているのでちょっと肩身が狭いです。(T_T)
あ、それと、プラスチック基板上でも作れるので、曲げることができる「フレキシブルトランジスタ」や「フレキシブル太陽電池」はわたしが元祖です。これも、最近有機半導体たちに押されているかも。(^^;)
でもね、最近、酸化物アモルファス半導体という仲間が巻き返しをもくろんでいます。
アモルファスシリコンだと、シリコン同士のσ結合による準位が構造ひずみによってとっちらかってしまうので、ギャップ内準位の多いバンド構造になってしまいます。そのせいで、キャリアは捕まっては動くというのを繰り返すホッピング伝導でのろのろしか進めません。
でもね、一部の酸化物アモルファス半導体(例えば、InGaZnOなどが売り出し中♪)では、重金属原子の大きなs軌道同士が酸素をまたいでお隣の金属s軌道と重なることができて、そこそこのバンドをつくれるんですよ。そのせいで、電子だけですが(酸素が電気陰性度高くって電子を持って行くので、重金属原子の軌道は伝導帯になります)移動度がアモルファスとは思えないほど高くなります。結晶半導体のみなさまにはかないませんけど...
こんなおくゆかしいわたしですが、今後ともよろしく♪

MN どこまで続くか....