2009年8月6日木曜日

仕事に役立つ?

当研究室のOBに、「大学や研究室で学んだことで仕事で役立っていることは何か?」というアンケートを採ってみようと思ったことがありました。結局は、連絡が取れる人数が少なく(連絡先不明になっている人が結構多い)、研究室単位ではあまり意味のある数がとれないだろうということで諦めたのですが、その後こんな記事を見つけました。

Tech-On!読者1000人に聞きました 第2回:新人の時に苦労したこと
「学生時代の研究や勉強は,今の仕事でどのように生きていますか」


記事の様子からは、回答がバラバラだったことが伺えますが、それらの回答を大まかに(1)基礎的な知識、(2)論理的な思考、(3)問題解決へのアプローチ、(4)研究や調査の仕方、(5)直接的なスキル、(6)人脈、の6つに分類しています。
このうち、回答が多いらしい(1)〜(4)について、現役院生の皆さん向けに考えてみます。

(1)基礎的な知識
数学や物理、化学、材料力学、機械力学、電磁気学、電気回路学など、大学の一般教養課程あるいは高校で学ぶ知識を挙げる回答が多く見られました
とのこと。これは、もっともだと思います。理学でも工学でも、専門知識が先に進めば進むほどそれを使う場面が限られてきます。そういう意味でも、基礎科目について十分理解し、いざというときに使いこなせることが大卒技術者の最大の強みだと思います。ここの学科でも、数学、電磁気学、回路理論はみっちり仕込まれている「はず」です。(この点については、院試をやる意義が大きいですね。)また、研究室での研究を進める中でも、それら基礎知識を復習したり応用力をつけたりする機会があるはずです。
この裏返しとして、
一方、「学生時代の研究などを通して学んだ専門知識が直接役立っている」という回答はほとんど見受けられませんでした。
ということも書いてあります。これも当然。先ほど述べたように、理学的な専門知識については、高度になるほどちょっと分野がずれると使い道がないことが多いです。技術的かつ実用的な専門知識に至っては、年月が経ってその技術分野が進化してゆくと使い物にならなくなります。場合によっては、5年も経つと陳腐化します。大学院での研究活動そのもので得た「研究での実用知識」は、その道で研究を続ける少数の「研究エリート」(ちょっと皮肉がこもってます)以外の人にとって、直接お役にたつことは少ないでしょう。でも、後述しますが、研究活動は決して無意味ではありません。

(2)論理的な思考
(3)問題解決へのアプローチ
(4)研究や調査の仕方
まとめて論じますが、これらこそ研究室で身につけて欲しいことです。何をやれば鍛えられるかは想像つきますでしょうか?
これらに教科書はありません。まったく無いわけではありませんが、やはりこれらはstudyの対象ではなく、learningあるいはtrainingによって身につけるものだと思います。この、learningあるいはtrainingという姿勢が年々薄れてきているように思えることが心配です。
実験系の研究の大まかな流れは次のようになると思います。(細部は異なりますが、この大まかな流れは企業で研究する場合も同じですね。)
(a)何を研究すべきか、テーマの大筋を考える。
(b)どのようにそれを実現するかのプランニングを行う。
(c)研究を遂行するための予算(場合によってはメンバー)を獲得する。
(d)今どのような実験を行うべきか必死に考える。
(e)それを確実に行う方法を考え、必要であれば実験装置を構築あるいは改良する。
(f)細心の注意と全てのノウハウをつぎ込み、実験を行う。
(g)出た結果について死ぬほど一所懸命に考える。
(h)新事実が確かであることを確認するまで、あるいは、技術的な進歩が一段落するまで(d)〜(g)を繰り返す。
(i)得られた結果をまとめ、他の研究者を納得させられる状態にして学会や論文などで発表する。
(j)一定の目的を達するまで(a)〜(i)を適宜繰り返す。

修士院生の人たちは(a)〜(c)は要求されませんが、(d)〜(i)のプロセスはぜひ2巡くらい体験して「論理的な思考、問題解決へのアプローチ、研究や調査の仕方」を会得して欲しいと考えています。しかも、どうせやるなら、これ以上無理というまで頑張った上で、一流の仕事を体験して欲しいものです。スポーツと同じで、楽をしていては個人の能力が高まりませんから。
なお、博士院生の人は、(a)~(c)のやり方も身につけるべし!

MN