2010年3月28日日曜日

Prof. Norbert Koch 来訪

書き込みの順序が前後しましたが、3月21日に、Humboldt-Universität zu Berlin の Prof. Dr. Norbert Koch が物理学会での招待講演のために来日したのに合わせて千葉大に立ち寄られました。Koch先生とは、Princeton大にいたころから、かれこれ10年近いつきあいです。
今回の滞在は、応用物理学会および物理学会にオーバーラップしていましたので、特に学内での行事はありませんでしたが、離日前夜、Koch先生と石井先生と私で、ディナーに出かけました。(写真は海鮮料理を食べるKoch先生)
今年こそ、是非ベルリンに立ち寄ってみたいと思います。

MN

2010年3月23日火曜日

3Dムービー

子供といっしょに3Dの映画を見てきました。
その名もスパイアニマルGフォース!実写+CGのディズニー映画です。
ストーリーについては触れませんが、ここでは3Dについて語ろうかと思います。

今、家電業界でも盛り上がっている3Dですが、そのドライビングフォースの一つがアメリカのコンテンツ産業ですね。アバターを初めとして、3Dを売りにした映画もどんどん増えています。
映画でもテレビでも、平面のスクリーンで立体視させるには右目用と左目用の視差をつけた2つの画像を用意します。
それを片目ずつで見せるやり方について、大きく分けて四種類の方法があるようです。
1.時間で分割する(アクティブシャッター方式)
2.波長で分割する(分光方式)
3.偏光で分割する(偏光フィルター方式)
4.幾何光学的に分割する(視差バリア方式)

1はXpanDで使われている方法で、右目用の画像と左目用の画像を高速で交互に切り替えます。画面とシンクロする仕組みを使って(映画館では赤外線で信号を送っているようです)、メガネに内蔵された回路で左右交互に液晶シャッターを開閉して切り替えます。映画館の設備投資が安く済むというメリットがあるそうです。今発売している3Dテレビも、すべてこの方式だと思います。

2はRealDで使われている方法で、右目用映像と左目用映像を右螺と左螺の円偏光で表示し、円偏光フィルターの付いたメガネで見る方法です。IMAX3Dという方式では、円偏光のかわりに直線偏光で分けているようです。
いずれも、メガネが安いので、使い捨てにしやすいというメリットがあります。

3は最も古典的な青と赤のセロファンを貼ったメガネを使うやつが有名ですが、今はもっと洗練されています。Dolby 3Dがこの方式で、可視光を連続的に使わず、比較的ピーク幅の狭いR、G、Bに分割して色を再現します。さらに、それぞれについて、右目用と左目用の波長を少しずらしておき、精密な干渉フィルターを使ったメガネで、片方の画像しか見えないようにするそうです。色再現性が良いのと、メガネを軽くできるのがメリットです。

4は映画では使われていません。シャープが特殊な用途のために開発したものです。小型ディスプレイ用の方式で、特定の距離で画面を見たときに、右目と左目で見える画素が異なるようになっています。

今日見た映画はDolby 3D方式だったのですが、思ったより顔の角度による影響はなく、見やすかったです。ただし、左右で微妙に色が違うので、それが不自然にならないような絵作りが必要だと思いました。
面白かったのは、このメガネを掛けると、白熱灯とLEDの区別が容易に付くことです。白熱灯のような連続スペクトルだと左右でほぼ同じ色に見えるのですが、LEDのようにスペクトルに特徴があると左右で色がかなり異なります。家庭で使うと気持ち悪いことになりそうですね。
アクティブシャッター方式で言われているような、長時間掛けていると重さが辛いということはなかったです。軽めのサングラス程度の重さでしたから。

では、3D映像に魅力を感じたかというと....
はっきりいって、不要だと感じました。あくまで個人的な感想ですが、見る側に制約を強いるというデメリットを超えるメリットはないと思います。

人間が空間的な広がりを知覚(奥行き知覚というそうです)する過程は結構複雑で、そもそも2次元的なセンサーである網膜で捕らえた画像に対して脳内でいろいろな処理を行うことで遠近を知覚します。
その元になっている情報はこんなにあるそうです:
a)調節−水晶体のピントによる情報。約2m以内の奥行きに用いられる。
b)輻輳−両目の眼球運動による情報。約6メートル以内の奥行きに用いられる。
c)両眼視差−異なる視点から生じる両眼網膜上の差異のこと。
d)大小遠近法−移動による大きさの変化など。
e)線遠近法−絵画のテクニックとして有名。直線が遠方で一点に収束するような絵。
f)大気遠近法−遠くのものが霞むことによるもの。
g)重なり合い−本来の全体像が重なっていることで隠れている物が遠くにあると判断。
h)陰影−下に影があると凸に見え、上に影があると凹に見えるなど。
i)きめの勾配−アスファルトの凹凸など「きめ」の密度が徐々に変化していることを遠近や勾配として知覚。

このうち、d)〜i)は従来の2D映像でも表現可能な情報です。特に映画やテレビでは、カメラを平行にあるいは円周上で移動させることによって、d)やg)を強調して奥行き感を出す方法もよく使われます。また、あえて被写界深度を浅くすることで、擬似的にa)を感じさせるというテクニックも使います。
3D映像ではこれにc)が加わりますが、まだa)やb)の情報は無いですから、特にこちらに飛び出すような映像のときに不自然さが残ります。また、こちらが頭を横に動かしてもあちらは反応してくれないのも不自然です。
より「リアル」に近くなるのに少し妙という感覚が生じるので気持ち悪さを感じる人もいるでしょう。
ヒューマノイドロボットなどでよく言われる「不気味の谷現象」ですね。

MN

追記:
元々自然な映像である必要の無いゲームなら、3Dを活かすソフト次第で魅力が増すと思います。ゲームなら、特に3Dでなくとも画面を正面から注視しますから、改めて姿勢を正して見るわけでもないですし。
ただし、せっかくオールリアルタイムCGの画面を3Dに変換するなら、テレビのような「受動的3D」ではなく、加速度センサ付きのヘッドマウントディスプレイで、頭の動きに画面が追随する「能動的3D」のほうが良いですね。